2026年5月23日

子どもの支援で見落としたくないこと――本当にケアが必要なのは、子どもだけではない

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子どもの不登校、希死念慮、無気力、家庭内での荒れ。

支援の現場では、こうした相談が「子どものことで……」という形で持ち込まれることが多くあります。

でも実際には、子どもだけを見ていても、支援が進まないケースが少なくありません。

結論から言うと、子どもの支援で本当に必要なのは、子ども本人への関わりと同じくらい、保護者の不安や生活状況を丁寧にほどくことです。

子どもの問題が前面に出ていても、その背景には、親の強い不安、家庭内の緊張、仕事やお金のプレッシャー、夫婦関係のしんどさ、支援の孤立などが重なっていることがあるからです。

この記事では、支援者、子どもと関わる仕事をしている方、カウンセラーの方に向けて、なぜ保護者ケアが重要なのか、そして相談場面で親の苦しさをどう見立て、どう言葉にしていくかを整理します。

子どもの相談であっても、見立ては「家庭単位」で考えたほうがいい

近年、子どもの自殺は高止まりが続いています。

厚生労働省・警察庁が公表した「令和7年中における自殺の状況」では、自殺者総数は19,188人で前年より減少した一方、19歳以下は増加しました。学生・生徒等のうち小中高生の自殺者数は538人で、統計のある1980年以降で最多です。[Source

この数字を見ると、子どもの苦しさを「本人の性格」「学校が合わない」「思春期だから」で済ませることはできません。

しかも、子どもは単独で生きているわけではない。家庭、学校、地域、SNS、経済状況、親の不安、周囲の価値観、その全部の中で生きています。

だからこそ支援者は、子どもだけを見るのではなく、その子が今どんな空気の中で暮らしているのかまで含めて見立てる必要があります。

支援者が保護者ケアに踏み込むべき理由

子どもの不調が長引くとき、支援者はつい「子どもに何が起きているのか」を深く見ようとします。

もちろん、それは大切です。発達特性、学校での出来事、友人関係、いじめ、睡眠、身体症状、希死念慮の有無。ここは外せません。

ただ、それだけでは足りないことがあります。

なぜなら、子どもの不調は、家庭全体の緊張や、保護者の消耗を通して表に出ていることがあるからです。

たとえば、こんな状況です。

  • 親が「このまま将来どうなるのか」という強い不安を抱えている
  • 学校に行けないことを、親自身の失敗のように感じている
  • 仕事を休みがちになり、収入や働き方が不安定になっている
  • 夫婦で支援方針がずれ、家の中が張りつめている
  • 祖父母や親族から「甘やかしでは」と言われ、孤立している
  • 親自身が過去の傷つきや未整理の不安を抱えている

こうしたものが積み重なると、親は「子どもを支えたい」のに、実際には不安や焦りが強く出やすくなります。

すると、子どもへの関わりは、見守りではなく監視に近づきやすい。対話より確認、受け止める前に正論、という流れにもなりやすいんですよね。

ここで必要なのは、親を責めることではありません。親の状態を支援対象としてきちんと扱うことです。

「子どものことで相談に来た親」に、支援者がまず見たいこと

相談場面で親が語るのは、「子どもの状態」であることが多いです。

でも、本当に見たいのは、その話の奥にある親の不安の中身です。

支援者が知りたいのは、「何が起きているか」だけではなく、何をそんなに怖がっているのかです。

1.親は、何をいちばん恐れているのか

親の不安は、ひとまとめにすると見えなくなります。

「心配です」の中身は、実はかなり違います。

  • 学校に戻れないことへの不安
  • 進学や就職につながらないことへの不安
  • 経済的に自立できなくなることへの不安
  • 親亡き後への不安
  • 周囲からの評価や孤立への不安
  • 自分の育て方が悪かったのでは、という罪悪感

ここが整理されないまま支援が進むと、親の言葉は全部「学校に行かせたい」に見えます。

でも実際には、学校の話をしているようで、親が本当に怖がっているのは「この子が将来、生活に困るのではないか」かもしれない。「私が倒れたら終わる」という切実さかもしれません。

支援者は、そこを言葉にしていく必要があります。

「学校に行けるかどうか」ではなく、「何がいちばん怖いのか」を一緒に特定する。 ここが支援の起点になります。

2.親自身の生活は、どこが崩れ始めているのか

親のしんどさは、感情だけではありません。生活として崩れていることが多いです。

  • 睡眠不足が続いている
  • 仕事を休みがちで、職場との関係が悪化している
  • 通院や送迎で出費が増えている
  • 食事、家事、きょうだい対応まで回らなくなっている
  • 配偶者と役割分担ができず、負荷が偏っている
  • 相談先はあるのに、本音までは話せていない

ここを見ずに「親御さんも休んでくださいね」と言っても、現実には休めません。

だから、支援者は感情面だけでなく、生活、仕事、お金、制度、家族関係を切り離さずに確認する必要があります。

看護の視点でも、FPの視点でも、認知行動療法ベースの支援でも、ここは共通です。生活が崩れている人は、気持ちだけでは立て直せない。逆に言えば、生活のどこを支えれば少し呼吸が戻るのかを見つけることが、実務として大事です。

3.親は「助けを求めること」にも疲れていることがある

支援職が見落としやすいのがここです。

相談に来ている親は、助けを求められているように見えます。でも実際には、何度も説明し、何度も否定され、何度も「様子を見ましょう」と言われて、もう疲れ切っていることがある。

その状態の親に対して、さらに「まずは見守って」とだけ返すと、支援者への不信が強くなることがあります。

親が求めているのは、魔法の解決策ではありません。今の苦しさを整理してもらうこと、自分のしんどさにも焦点を当ててもらうことです。

支援者が保護者の苦しさを紐解くための問い

ここは、かなり実務的な話です。

親の不安をほどくには、励ましや一般論より、不安の輪郭をはっきりさせる問いが役立ちます。

たとえば、こんな問いです。

  • 「今いちばん怖いのは、何ですか」
  • 「学校のことと将来のこと、どちらの不安が強いですか」
  • 「お子さんの状態より先に、今ご自身の生活で回らなくなっている部分はありますか」
  • 「眠れていますか。食べられていますか。仕事は続けられていますか」
  • 「家の中で、このことを一緒に考えられる人はいますか」
  • 「何をすると、いちばん責められている感じがしますか」
  • 「逆に、少しでも楽になる場面はありますか」

ポイントは、子どもの状態確認だけで終わらせないことです。

親の身体・感情・生活・仕事・お金・人間関係を一緒に見る。そうすると、相談が「子どもをどうするか」から、「家庭をどう立て直すか」に変わっていきます。

支援者がやりがちなズレ

ここは意識しておきたいところです。

子どもの回復を「登校」で測りすぎる

親が不安なときほど、支援の評価軸が「学校に行けたか」に寄りやすくなります。

でも実際には、朝起きられた、食事が戻ってきた、会話が少し増えた、表情がやわらいだ。こうした変化も回復の一部です。

そこを見逃すと、親も子どもも「何もよくなっていない」と感じやすくなります。

親を「過干渉」「不安が強い」で止めてしまう

支援者側から見ると、親が過剰に見えることはあります。

ただ、その背後には、孤立、睡眠不足、経済不安、パートナーとの不一致、支援者にうまく伝わらないもどかしさがあるかもしれない。

ラベルを貼る前に、背景を見たほうがいい。ここを飛ばすと、親はますます防衛的になります。

親へのケアを「傾聴」だけで終わらせる

もちろん、傾聴は大事です。

でも、親の困りごとが生活に及んでいるなら、必要なのは傾聴だけではありません。

  • 受診や相談の優先順位を一緒に整理する
  • 学校との連携の交通整理をする
  • 使える制度や支援先を具体的につなぐ
  • 仕事と付き添いの両立について現実的な選択肢を考える
  • 家庭内で役割を抱え込みすぎていないかを確認する

親の支援は、「気持ちに寄り添うこと」と「生活が崩れない形を一緒に考えること」の両方が必要です。

保護者ケアに踏み込むと、子どもへの関わりはどう変わるか

親の不安が少し整理されると、子どもへの関わり方は変わります。

監視ではなく、見守りに近づく。
指示ではなく、対話が増える。
正論ではなく、気持ちを受け止める余裕が戻る。

そして、子どもの状態を「問題」としてだけではなく、「この子はいま何を抱えているのか」と見られるようになっていきます。

これは、きれいごとではありません。

支援の現場では、子どもの支援を進めようとしても、保護者の不安が強いままだと、介入が家庭の中でうまく機能しないことがよくあります。逆に、親の負荷が少し下がるだけで、子どもの回復が進みやすくなることもある。

子どもを支えるには、保護者の足場を整える必要がある。 ここは実感としても、構造としても、かなり大きいポイントです。

子どもの自殺予防を考えるなら、支援の単位を「本人」から「関係性」へ広げる

子どもの自殺予防というと、どうしても本人のサイン、本人の言葉、本人の受診につながりやすいです。

もちろん、それは重要です。

ただ、支援者がもう一歩踏み込むなら、見たいのは関係性の中で何が起きているかです。

家庭の中に、本音を言っても大丈夫な空気はあるか。
親は自分の不安を一人で抱え込んでいないか。
子どもの不調が、家庭全体のSOSとして現れていないか。

この視点を持つだけで、支援の組み立ては変わります。

子どもを変えることだけを急がない。保護者を責めない。でも、保護者支援にはしっかり踏み込む。そのバランスが大事です。

最後に

子どものことで相談に来た親に対して、支援者が本当に見るべきなのは、「子どもの問題」だけではありません。

親は何に追い詰められているのか。何を失うのが怖いのか。生活のどこが崩れ始めているのか。 そこを丁寧に見ていくことが、結果として子どもの支援にもつながります。

支援者の役割は、子どもを変えることでも、親を指導することでもなく、家庭の中で起きている苦しさを構造化して、支援の優先順位を一緒に整理することだと私は思っています。

子どもの自殺や不調を前にしたとき、本人だけを見る支援には限界があります。

だからこそ、保護者ケアにもっと踏み込む。感情だけでなく、生活、仕事、お金、制度、家族関係まで含めて見る。

そこからしか開けない支援があります。

参考資料

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