近年大人の発達障がいが注目を浴びていますが、ハラスメント問題も実は発達障がいの影響で起こっているといったケースも非常に多くあります。
実は筆者(高梨子)も、注意欠如・多動(ADHD)が強めで、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向も少しあり、これまでのパートナーシップや育児にもその特性が現れていました。それぞれの発達障がいの特性と、その影響が家庭内にどのように表れているのか具体的に解説ていきたいと思います。
1. 大人の発達障がいが注目される理由
- 社会の多様性への理解が進んだ
発達障がいに対する社会的な認識が広がり、以前は「個性」や「性格の問題」とされていた特性が障がいとして注目されるようになりました。
- 診断基準や支援体制の整備
診断基準が明確化され、大人でも発達障がいが発見されやすくなりました。医療機関や福祉サービスの充実も一因です。
- 職場や家庭での困難の増加
職場での人間関係やコミュニケーションの困難、家庭内での役割葛藤などから、発達障がいの特性が問題として表面化するケースが増えています。
- 大人世代での二次障がいの増加
発達障がいが気付かれずにストレスや不適応が続いた結果、不安障がいやうつ病などの二次障がいを抱えるケースが増え、診断を通じて発覚することが多くなっています。
発達障がいの特徴
発達障がいは単独で現れる場合もありますが、複数の特性が重なって出現すること(共存症、共存障がい)が非常に多いです。
複数の特性が重なる「共存症」が起こる理由は主に3つあります。
1つ目は神経発達の影響です。発達障がいは脳の特定の領域や神経発達に関わる問題が原因であり、その影響が広範囲に及ぶことで、複数の障がいが同時に現れることがあります。
2つ目は診断基準の重なりです。発達障がいの診断基準には共通する症状が含まれており、例えばASD(自閉スペクトラム症)とADHDの特性が併存することも珍しくありません。
3つ目は生活環境やストレス要因です。発達障がいによる適応困難がストレスを生み、そこから二次的に不安障がいやうつ病などの別の症状を引き起こす場合があります。これらの要因が複合的に作用し、共存症が発生するのです。
重なる特性の具体例
ASD(自閉スペクトラム症)+ADHD(注意欠如・多動症)
- 特徴
・ASDのこだわりの強さに加え、ADHDの注意散漫や衝動性が見られる。
・計画通りに行動したい一方で、集中力が続かないという矛盾を抱える。 - 影響
・職場や学校で計画の実行が難しく、周囲から「だらしない」と見なされることがある。
・コミュニケーションが苦手なため、衝動的な発言でさらに誤解を招く場合も。
ADHD(注意欠如+多動症)+LD(学習障がい)
- 特徴
・注意が散漫でミスが多いADHDに加え、読み書きや計算が苦手。
・タスクを進める際、全体像を把握しにくく、パフォーマンスにムラが出る。 - 影響
・学校や職場で、忘れ物や作業遅れが目立ち、能力を過小評価される。
・自己肯定感の低下や不安障がいを引き起こしやすい。
DCD(発達性協調運動障がい)+ASD(自閉スペクトラム症)
- 特徴
・身体的不器用さに加え、ASDの感覚過敏やコミュニケーションの難しさを抱える。
・運動や身体の使い方が苦手なため、集団活動で孤立することが多い。 - 影響
・職場でのチーム作業や身体的スキルが必要なタスクに適応しづらい。
・自己評価が低くなり、二次的に不安や抑うつ症状を抱えることがある。
パートナーシップにおける課題
1.自閉スペクトラム症(ASD)
特性による問題
1. コミュニケーションのすれ違い
ASDの特性として、相手の気持ちや非言語的なメッセージを読み取るのが難しい場合があります。そのため、パートナーが何を求めているのか気づかず、「思いやりがない」「冷たい」と誤解されることがあります。
・暗黙の了解やニュアンスを理解するのが苦手。
・明確に言葉で伝えられないと気づけない場合が多い。
2. 感情の表現不足
感情を言葉や態度で示すことが難しいため、「愛情が感じられない」とパートナーに思われることがあります。
・感情はあっても、それを外に出す方法が分からない。
・愛情表現が一方的または不適切になることがある。
3. こだわりや柔軟性の欠如
ASDの特性であるこだわりやルールへの固執が、家庭内での役割分担や生活習慣の中で衝突を引き起こすことがあります。
・自分のルーチンや価値観を優先しすぎて、パートナーの意見や希望を無視しているように見える。
・突発的な予定変更に対応できず、不満が蓄積する。
4. 社会的な場での困難
家庭外での付き合いや社交の場で、ASD特性が顕著に表れる場合があります。これが原因で「協力的でない」と感じられることがあります。
・人間関係の距離感が分からず、不適切な言動を取ることがある。
・社交の場自体がストレスとなり、避けようとする。
5. 感覚過敏や鈍感
音や光、触覚への過敏さや鈍感さが、生活上のストレスや不一致を生むことがあります。
・日常的な刺激に対する感覚がパートナーと大きく異なり、共感が難しい。
ポイント
意図しないすれ違いや衝突が続くと、不満や誤解が積み重なり、パートナー間の信頼が揺らぐことがあります。ASD特有の特性として、自分の意図を適切に伝えることが難しい場合があり、それが相手には冷たく感じられたり、支配的に映ることがあります。また、感情表現が乏しいため、無関心や攻撃的と誤解されるケースも少なくありません。
ただし、ASDの人の多くは、他者をコントロールしたいという意図を持っていない点で、モラハラとは根本的に異なります。そのため、ASD特性が原因となる場合には、双方が特性を正しく理解し、コミュニケーションを改善するための努力が重要です。一方で、ASD特性を理由にモラハラ的な行動が正当化されるわけではないため、適切なサポートを通じて健全な関係性を築く意識も欠かせません。
解決へのアプローチ
- 特性の理解を深める
パートナーがASDの特性について学び、すれ違いの原因を理解することが重要です。 - 明確なコミュニケーションを心がける
感情や要望は具体的な言葉で伝えるようにします。暗黙の期待を避けることがポイントです。 - 専門家のサポートを受ける
ASDの特性に詳しいカウンセラーやセラピストに相談することで、関係性を改善するための具体的なアドバイスが得られます。 - 柔軟性を取り入れる練習
ルーチンやこだわりを緩める練習をする一方で、パートナーもその特性を尊重します。
2.注意欠如・多動症(ADHD)
特性による問題
1. 忘れ物や時間管理の問題
約束を忘れる、時間に遅れる、物をなくすなどが頻発し、パートナーに「無責任」「自分を軽視している」と感じさせることがあります。
・ADHD特有の注意力の欠如や計画性の弱さが原因。
・忙しいときに物事を優先順位づけるのが難しい。
2. 衝動的な発言や行動
考えずに口にした言葉がパートナーを傷つけることがあります。また、急な計画変更や感情の爆発が問題を引き起こします。
・衝動性により、相手への配慮が追いつかない。
・感情が高ぶると冷静な対応ができなくなる。
3. 家事や育児の分担での不満
やりかけで終わる家事や、やるべきことを忘れるなどで、パートナーに負担が偏りがちになります。
・注意散漫のため、タスクを最後まで終わらせるのが苦手。
・興味が移りやすく、一貫性が保てない。
4. お金の使い方や衝動買い
予算を守らず衝動的に買い物をしてしまい、金銭管理に不安が生じることがあります。
・衝動的な意思決定が原因。
・将来の見通しより「今の欲求」が優先される。
5. 過集中と無関心の落差
一つのことに没頭して周囲が見えなくなる一方で、興味がないことには全く注意を向けないため、パートナーに「関心がない」と思われることがあります。
・過集中の特性により、周囲の声が届かなくなる。
・気が散りやすい一方で、興味のある分野には深くのめり込む。
ポイント
ADHDの特性はモラハラと誤解されることがあります。衝動的な発言や計画性の欠如が相手を傷つけたり、無責任と感じさせる場合があるためです。本質的には他者をコントロールする意図がないためモラハラとは異なりますが、結果的にモラハラと同じような状況を作り出してしまうこともあります。
そのため、本人は衝動的な行動や言動を自覚し、改善に取り組む必要があります。一方で、周囲もADHD特性を正しく理解し、相手を責めるのではなく、協力的な姿勢で接することが重要です。
解決へのアプローチ
- ADHD特性の理解を深める
双方がADHDの特徴やその影響を理解し、行動の背景に悪意がないことを知る。 - 明確な役割分担とルール設定
家事や育児は具体的で明確な役割分担を決める。タイマーやリマインダー、付箋やホワイトボードなどを活用する。 - お金の管理を工夫する
衝動買いを防ぐために予算を決め、重要な出費はパートナーと相談する。 - 冷静になる時間を確保
衝動的な行動を避けるために、深呼吸や一呼吸置く習慣をつける。 - 専門家の支援を活用する
カウンセリングやコーチングを受けることで、具体的な改善策を学ぶ。
育児における課題
1.自閉スペクトラム症(ASD)
特性による問題
- 子どもの感情表現がわからない
子どもの感情やニーズを察知することが苦手で、適切な対応ができない場合があります。 - 柔軟性の欠如
子どもは予測不能な行動をすることが多いため、親がこだわりを強く持っているとストレスが高まりやすい。 - 一貫した教育スタイル
ASDの親は、一貫性のある教育をするのが得意ですが、柔軟さを求められる場面で苦労することが多いです。
影響
- 子どもが「理解されていない」と感じたり、親が自己否定に陥る場合があります。
2.注意欠如・多動症(ADHD)
状況
- 子どもへの注意が散漫になる
ADHDの親は、子どもに対して集中して関わることが難しい場合があり、子どもが孤立感を感じることがあります。 - 感情的な対応が増える
衝動的な反応やイライラが子どもに伝わり、不安定な親子関係を作る原因になることがあります。 - 時間やルーチンの管理が苦手
ADHDの親は、子どもの学校行事やスケジュール管理を忘れやすく、混乱を招くことがあります。
影響
- 子どもに不安感を与えたり、親自身が「自分は良い親ではない」と感じる場合が多くなります。
3.学習障がい(LD)や発達性協調運動障がい(DCD)
状況
- 育児におけるスキルの困難
読み書きが苦手な親が子どもの宿題を手伝えない、運動が苦手な親が一緒に遊ぶことが難しいなどの問題が発生します。 - 子どもへの教育サポートの難しさ
親自身が苦手な分野で子どもを指導する際、親子ともにストレスがたまりやすくなります。
影響
- 子どもが親に助けを求めにくくなる、また親自身が役割を果たせていないと感じて自己否定に陥ることがあります。
高梨子のADHD+ASDの影響と対策
私の場合、衝動性が高く注意が散漫しやすいところが強く出ています。ADHD>ASDといったところですが、興味の対象はうつりやすいのにもかかわらず、こだわりが強く、いろいろと拗らせてきました。
熱しやすく冷めやすい
熱しやすく冷めやすい、突然無関心になってしまうので、パートナーシップは3年以上続きません。嫌いになるわけではないけど、もういいやってなってしまいます。(家も3年おきに引っ越しして今回9回目)。子どもに対しても必要以上に関心がわかず、”自分の子どもだから特別”という感覚がありません。いい意味で、別の人格という線引きができるので将来をコントロールしようとしたり、過干渉による抑圧などはありません。ただ、必要以上に心配することもないため、冷たいと感じるころがあるかもしれません。
習い事をさせなければ、頭が良くなければ、いい仕事につくためには・・・、母としてこうしなければならないという世間の価値観とは異なる価値観で、初めは自分自身のことも普通ではないと責めました。ただ、色々向き合ってみてもどうしても関心が続かないのは、私の特性なんだとわかったので、これからどう関わっていくか?にシフトして、お互いに目標を共有したり、人生観を話し合うなどして認識を共有するようにして彼らの選択をサポートしています。
衝動性が強い
家族や夫婦など、近い存在の人に対しては特に、アレコレ気になって怒る、突然不機嫌になる、などがありました。例えば育児だと、モノが散らかっている、ドアが開きっぱなし、ご飯を残している、約束の仕事をしていないなど、同時にあらゆることが気になるので、気になったときに相手に言ってしまいます。以前はもっと感情的になっていましたが、私自身が認知行動療法を取り入れてから、許容できることが増えたのと、自身の凹凸も受け入れられるようになりました。
特に子どもも私と同じような特性があり、色々ことがやりっぱなし、中途半端で次の事をするなど行動の理由を理解してからは、タスクの整理や優先順位の立て方をお互いに話して解消するようになりました。
私も仕事もアレコレやっているため、タスクに埋もれがちなので、付箋やホワイトボードを活用していつでも整理できるように意識しています。
心のケアを優先的に実施
私自身も子どもたちも、どうしてもそれぞれの価値観がずれたり、感情がぶつかったりしてしまいます。そのため、我慢をすることよりも、自己開示をして感情を解消させることを意識しています。そのため、子どもたちもどんな感情なのか、なぜそう感じたのかを声に出して伝えられるようになりました。ちょっと苦しいことがあると子どもたちの方から話してくれるようにもなり、ストレス源と向き合えるようになりました。
そして子どもにも頼る、周りの人や環境にも頼る、そのために私自身も自己開示をするようにしています。人間は発達障がいがあるなし関係なく、みんな凹凸があるものです。だからこそ共生する意味があるのだと思っています。
発達障がいがあるかどうかではなく、特性を受容し、活かせることが大事
発達障がいそのものが問題ではありません。なので、診断をつけることも重要だとは思っていません。本当の課題は、自分自身や他者の特性を受け入れることができず、固定観念や思い込みに縛られてしまうことにあります。その結果、対人関係にギャップが生じ、心身へのダメージが蓄積されてしまいます。特性を否定するのではなく、正しく理解し、どう活かしていけるかを考えることが重要なのではないでしょうか。
認知行動療法は、このプロセスを支える効果的なアプローチです。自分の思い込みや固定観念と向き合い、それを柔軟に捉え直す力を養うことで、特性を受け入れ、健全な関係を築く土台が作られます。特性を受容することは、問題を減らし、新しい可能性を見つける大きな第一歩となります。
色々学んで理解はできていても、ストレスが残ってしまう場合は、専門家を頼るのも一つです。特性によってできないこともありますが、必ず出来ていることがあるので、そちらも見ていけるようになるといいですね。