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ToggleMawariがつくろうとしている、AIが現実空間に現れる未来
ChatGPTをはじめとする生成AIが広がり、私たちはAIと文章で会話することに、少しずつ慣れてきました。
質問をすると答えてくれる。
文章を書いてくれる。
画像や動画まで作ってくれる。
ただ、今のAIは基本的に、スマートフォンやパソコンの画面の中にいます。
こちらの言葉は理解できても、今いる部屋の広さや、目の前に誰がいるのか、その人がどの方向を見ているのかまでは、十分に理解していません。
では、AIが画面の中から出てきたら、どうなるのでしょう。
ARグラスをかけると、目の前にAIの案内人が現れる。
その人の表情や視線を見ながら、話す内容を変える。
一緒に歩き、物を指し示し、その場所に合わせて説明する。
そんな未来の基盤をつくろうとしている企業の一つが、東京発の株式会社Mawariです。
Mawariは、単なるVR・ARコンテンツ制作会社ではありません。
同社が狙っているのは、
AIの知性を、3Dの身体として現実空間に出現させるためのインフラ
です。
LLMの次に注目される「ワールドモデル」
現在、多くの人が利用しているChatGPTなどのAIは、主にLLMと呼ばれる技術を基盤にしています。
LLMはLarge Language Model、大規模言語モデルの略です。
大量の文章を学習し、言葉同士の関係を理解することで、質問への回答、文章作成、要約、翻訳などを行います。
いわば、言葉を扱う頭脳。
一方で、次のAI市場として注目されているのが「ワールドモデル」です。

ワールドモデルは、文章だけではなく、
- 空間
- 距離
- 奥行き
- 時間の流れ
- 人や物の動き
- 原因と結果
- 物理法則
- 行動した後に何が起こるか
といった、世界の成り立ちを学習します。
World Labsは、言語モデルが文章の統計的構造を学ぶのに対し、ワールドモデルは空間と時間の構造を学ぶと説明しています。NVIDIAも、ロボットや自動運転などのPhysical AI向けに、現実世界を理解・予測する「Cosmos」というワールド基盤モデルを展開しています。
簡単に分けるなら、
LLMは、部屋について言葉で説明できるAI。
ワールドモデルは、部屋の中を理解し、次に何が起きるかを予測できるAI。
という違いです。
Mawariはワールドモデルの「外側」をつくっているだけではない
ここで、Mawariの立ち位置を正確に見ておく必要があります。
Mawariは、World LabsやNVIDIAのように、巨大なワールド基盤モデルそのものを中心商品として発表している会社とは少し異なります。
ただし、「ワールドモデルを表示するだけの配信会社」と捉えるのも不正確です。
Mawariは、3Dコンテンツを利用者へ配信し、利用者の入力や行動を取得・分析し、その分析結果に応じて3Dコンテンツを変更して再配信する仕組みについて、米国特許を取得しています

米国特許US12254566B2には、利用者が3Dコンテンツを見ている間の入力情報や時間、発生したイベントを分析し、その結果に応じて表示内容を変え、変更した3Dオブジェクトを再びストリーミングする仕組みが記載されています。対象にはAR、VR、MR、XRなども含まれています。
これは単なる映像配信ではありません。
利用者が何を見たのか。
どこで立ち止まったのか。
何に近づいたのか。
どのような操作をしたのか。
その結果、空間やキャラクターをどう変化させるのか。
こうした一連の循環を扱う技術です。
厳密には、この特許だけで「ワールドモデル全体を独占している」という意味ではありません。
ただ、ワールドモデルが現実空間で利用される際に重要となる、
人と3D空間の相互作用を取得し、分析し、空間へ反映するフィードバックループ
を、Mawariが早い段階から技術開発し、権利化してきたことは大きな意味を持ちます。
具体的には、どのような世界になるのか
例えば、数年後のショッピングモールを想像してみてください。
ARグラスをかけて館内へ入ると、目の前にAIの案内人が現れます。
「子どもと一緒に食事ができる場所を探している」
と伝えると、AIは館内の混雑状況、子どもの年齢、現在地などを確認し、目の前の空間に矢印を表示しながら案内してくれる。
途中で子どもがキャラクターショップを見つめたら、その反応を捉えて、
「このお店では、今このキャラクターのイベントを開催しています」
と教えてくれるかもしれません。
AIが一方的に説明するだけではありません。
利用者の視線、歩く速度、立ち止まった場所、選んだ商品、質問内容などに合わせて、案内の仕方が変わっていく。


病院なら、受付や院内案内。
学校なら、子どもの理解度に合わせたAI講師。
観光地なら、歴史上の人物がその場所に現れて説明する。
企業研修なら、実際の職場を再現した対話型トレーニング。
音楽ライブなら、アーティストが目の前に現れ、観客の反応に合わせて演出が変わる。
こうした体験には、AIモデルだけでは足りません。
AIを3Dで表示する技術。
現実空間に正確に固定する技術。
遅延なく動かす通信環境。
利用者の近くで処理するGPU。
人の反応を取得し、コンテンツへ戻す仕組み。
その全体が必要になります。
Mawariが狙っているのは、この部分です。
SuperAIで示した「AI Through XR」
2026年6月にシンガポールで開催されたSuperAI 2026で、Mawariはプラチナスポンサーとして参加しました。
イベント側はMawariについて、AIが知性をつくり、XRが存在感を与え、Mawariがその間をつなぐ企業だと紹介しています。
Mawariが掲げた考え方は、
AI Through XR
です。

AIとXRを別々の市場として見るのではなく、XRを通してAIが現実世界に現れるという考え方です。SuperAIの公式紹介では、Mawariは特許取得済みの3Dストリーミングエンジン、50件以上の商用導入、7件の取得特許、18万以上のコミュニティノード、2026年5月からのメインネット稼働を実績として示しました。
多くのAI企業が「より賢い頭脳」を競う中で、Mawariは少し異なる場所に立っています。
どのAIモデルが最終的に勝つかを当てにいくのではなく、
どのAIが使われても、現実空間に出てくるときに必要になる基盤を押さえる。
そんな立ち位置です。
「ワールドモデルには、活動する世界が必要」
SuperAIの直後に開催されたAWE USA 2026では、MawariのCEOであるルイス・オスカー・ラミレス氏が、
World Models Need a World
ワールドモデルには世界が必要だ
というテーマで登壇しました。
現在開発されている多くのワールドモデルは、データセンターの中にあります。
3D空間を生成したり、映像から物理世界を予測したりすることはできても、実際に私たちの部屋へ立ち、ARグラスを通してリアルタイムに関わるところまでは、まだ十分に実現されていません。
AWEの講演紹介では、Mawariが2019年の段階から、ライブ3Dコンテンツに対する人の関わり方を分析する技術の特許出願に取り組んでいたことや、XRによって生まれる空間相互作用データが、AI研究企業にとって重要な資産になるという考えが示されています。
ここにMawariの大きな可能性があります。
AI企業がワールドモデルをつくる。
Mawariが、そのAIを現実空間へ届ける。
人がAIと関わる。
視線、移動、会話、選択などのデータが生まれる。
そのデータを使って、AIや空間体験がさらに改善される。
表示するだけではなく、現実世界とAIの間に循環をつくる。
それが、Mawariの描いている未来です。
ARAWAで「技術」を「サービス」に変える
どれだけ優れた技術でも、実際に使われなければ市場にはなりません。
そこでMawariが発表したのが、リアルタイム空間プラットフォーム「ARAWA」です。

ARAWAでは、VTuberなどの3Dキャラクターについて、
- 現実空間で会う
- 一緒に撮影する
- コンテンツを制作する
- リアルタイムで配信する
という一連の機能を、同じ基盤上で扱えるようにしています。
高性能な処理をサーバー側で行い、スマートフォンやXRデバイスへ配信するため、将来的には本体の処理能力が高くない軽量ARグラスでも、高品質な3D体験を提供することを想定しています。
2026年3月には、KDDIの5Gミリ波とARAWAを組み合わせ、20人がARグラスを装着して、等身大のVTuberと同じ空間で双方向に交流するイベントが実施されました。
従来の一人用デモではなく、複数人が同じ3Dキャラクターを共有する形へ進んだ点が重要です。Mawariは、この仕組みを商業施設、テーマパーク、多拠点ライブビューイング、空間広告などへ広げる方針を示しています。
まだ20人規模です。
スタジアムや都市全体で何千人もの人が同時利用する段階とは、大きな差があります。
それでも、「技術的にできる」という説明だけではなく、実際の利用環境で動かし始めたことには意味があります。
スマートグラスの普及が、Mawariの市場を広げる
Mawariの成長に大きく関わるのが、ARグラスやAIグラスの普及です。
Googleは2026年5月、Geminiを搭載するAndroid XR対応のインテリジェント眼鏡について、音声型とディスプレイ型の2種類を展開すると発表しました。音声型の製品は2026年秋から提供される予定です。
Metaも、AIグラスとARグラスの開発を進めています。Metaが公開したOrionは、通常の眼鏡に近い形状でありながら、現実空間にデジタル情報を重ねることを目指すARグラスです。
スマートグラスが普及すると、必要になるのはグラスそのものだけではありません。
その上で動くAI。
現実空間に表示する3Dコンテンツ。
映像を軽くして届ける通信技術。
地域ごとに処理するGPU。
人の反応を理解する仕組み。
ハードウェアが普及するほど、その裏側のインフラ需要も増えていきます。
Mawariはグラスを製造する会社ではありません。
むしろ、Google、Meta、Apple、XREALなど、複数のデバイスが競争する中で、機種を超えて3Dコンテンツを配信できる立場を狙っています。
なぜ分散型GPUネットワークが必要なのか

高精細な3Dキャラクターを動かすには、大きな計算能力が必要です。
さらにAIとの会話、表情、音声、視線、身体の動き、現実空間との位置関係を同時に処理すると、スマートグラス本体だけでは負担が大きくなります。
本体を高性能にすれば、重くなり、熱を持ち、バッテリーの消費も増えます。
かといって、遠く離れたデータセンターだけで処理すると、反応が遅れる。
人とAIが会話している最中に、表情や返事が一瞬ずれるだけでも、体験の自然さは大きく損なわれます。
そこでMawariは、利用者に近い地域にあるGPUで処理し、必要な3Dデータをリアルタイムで届ける分散型ネットワーク(DePIN)を構築しています。
Mawari Networkのメインネットは2026年5月から稼働段階に入り、現在の公式ロードマップでは、2026年第2四半期から2027年第1四半期を最適化期間としています。
この期間には、地域の需要やノード性能に応じて処理を割り振る仕組み、XR開発者への助成、ノードライセンスのマーケットプレイスなどが予定されています。
ただし、「18万ノード」という数字だけで事業規模を判断するのは注意が必要です。
ネットワークの検証を行うGuardian Nodeと、実際にGPUで3Dレンダリングを行うSpatial Streamer Nodeは、役割が異なります。
重要なのはライセンス数ではなく、
- 実際に稼働しているGPU数
- 処理された3D配信の件数
- 有料利用者数
- ARAWAの導入企業数
- ネットワーク利用料
- ノードへ分配される外部売上
です。
ここが増えて初めて、分散型インフラが実需を持った事業になります。
Mawariは技術会社から「経済圏をつくる会社」へ
Mawariの最近の動きで興味深いのが、バーチャルアーティスト「Yunai」の開発です。
2026年6月、MawariはYunaiとエイベックス・ミュージック・クリエイティヴとのエージェント契約を発表しました。7月1日には、デビュー曲『Blue Coffee Mug』を世界配信しています。
なぜインフラ企業が、アーティストをつくるのでしょうか。
理由の一つとして考えられるのは、自社ネットワークを使う需要そのものを生み出すためです。
道路をつくるだけでは、車は走りません。
通信網をつくるだけでは、コンテンツは生まれない。
Mawariは、
- インフラ
- 分散型ネットワーク
- 3D配信技術
- ARAWA
- キャラクター・IP
- 音楽やグッズ
- ファンとの体験
までをつなげようとしています。
Yunaiが今後、自律的に会話や行動をするAIエージェントへ発展するのか、現時点では公開情報だけでは分かりません。
それでも、自社技術のデモキャラクターにとどめず、エイベックスを通して音楽、タイアップ、グッズなどの現実のビジネスへ接続したことは、Mawariの事業領域が変化していることを示しています。
Mawariの市場可能性は、XR市場だけでは測れない

Mawariの可能性を考えるとき、「XR市場が伸びるか」だけを見ると、本質を外しやすいと思います。
Mawariが関わる可能性があるのは、複数の市場が重なる場所です。
AI・ワールドモデル市場
AIが文章だけでなく、空間や物理世界を理解する方向へ進んでいます。
スマートグラス市場
画面を見るコンピューティングから、日常の視界に情報を重ねるコンピューティングへ移行する可能性があります。
デジタルヒューマン・AIエージェント市場
AIが文字や音声だけでなく、表情や身体を持って人と関わるようになります。
キャラクター・IP市場
アニメ、ゲーム、VTuber、アーティストが、動画の中だけではなく現実空間へ現れます。
エッジGPU・分散コンピューティング市場
大量のAI推論と3D描画を、利用者の近くで処理する需要が増えます。
空間データ市場
人が何を見て、どこを歩き、何に反応したかという、これまで十分に取得されていなかったデータが生まれます。
Mawariが狙っているのは、この交差点です。
一つの市場だけに依存するのではなく、AI、XR、通信、GPU、IP、データが重なる場所にいる。
ここが、Mawariの価値として注目すべき部分だと思います。
もちろん、未来が確定したわけではない
一方で、技術があることと、大きな事業になることは同じではありません。
スマートグラスが日常的に使われるまでには、
- 価格
- 重さ
- バッテリー
- 視野角
- 発熱
- プライバシー
- 撮影への抵抗感
- コンテンツ不足
など、まだ多くの課題があります。
Mawari自身にも確認すべき点があります。
ARAWAが継続的な売上を生み出せるのか。
20人規模の体験を、数千人規模へ拡張できるのか。
分散GPUへ十分な処理需要が流れるのか。
空間データの利用について、同意や個人情報保護をどう設計するのか。
特許を実際の競争優位やライセンス収益へつなげられるのか。
技術的な先行だけでは足りません。
利用者、コンテンツ、企業導入、売上が一つの循環として回る必要があります。
Mawariは「AIの頭脳」ではなく「AIが生きる世界」をつくる
今のAI競争では、どのモデルが一番賢いのかに注目が集まりがちです。
しかし、AIがどれだけ賢くなっても、データセンターの中にいるだけでは、私たちの日常へ入ってくることはできません。
AIが人の隣に立つ。
同じものを見る。
場所を理解する。
人の反応を受け取る。
その場に合わせて行動を変える。
そのためには、AIモデルとは別の巨大な基盤が必要になります。
Mawariは、AIそのものをつくる競争ではなく、
AIが現実世界に存在し、人と関わり、学習し続けるための世界をつくる競争
に参加しています。
しかも、3D配信だけではありません。
人と3D空間の相互作用を分析し、空間へ反映する特許。
リアルタイム配信を実現するARAWA。
処理を世界へ分散するMawari Network。
KDDIなどとの実証。
そして、自社IPであるYunai。
一つひとつは別の事業に見えます。
ただ、つなげて見ると、一つの未来像が見えてきます。
AIが身体を持ち、現実空間に現れ、人と関わる。
その体験を支えるインフラからコンテンツまでを、Mawariが押さえようとしている。
まだ市場は立ち上がり始めたばかりです。
だからこそ、今の売上や知名度だけでは、この会社の価値を判断しにくい部分があります。
見るべきなのは、Mawariが「今どれだけ大きいか」だけではありません。
これからAIが画面の外へ出てくるとき、どの場所をMawariが押さえているのか。
そこが、未来の可能性を考えるうえで重要なのだと思います。

