休むことは、必要です。
でも、長く休めばそのぶん回復するかというと、そこは少し違います。
むしろ、休み方を誤ると、心のしんどさだけではなく、生活リズム、お金の見通し、職場とのつながりまで一緒に崩れていく。この考え方がすごく重要だと思っています。
メンタル不調の支援は、やさしさだけでは足りません。
気合いで戻せるものでもありません。
必要なのは、休ませるかどうかではなく、どう休み、どう戻るかを最初から設計しておく(考えておく)ことだと思っています。
目次
Toggle休ませれば解決ではない
しんどい時に休む。
それ自体は、当然必要なことです。
ただし、休めば自然に元に戻る、というほど単純でもないのです。
朝起きる理由がなくなる。
外に出るきっかけが減る。
職場に返信するだけで動悸がする。
収入が減るかもしれない不安が出る。
家族にどう説明したらいいか分からなくなる。
そうやって、症状の問題が、生活全体の問題に広がっていくことがあります。
だから本当は、診断書が出た時点で考えるべきなのは、何カ月休むかだけではないんですよね。
生活が崩れない休み方になっているか。
復職に向けた道筋が見えているか。
お金や制度の不安を、本人だけで抱え込ませていないか。
ここをしっかり考えておかないと、あと苦しくなってしまうのは本人なのです。
メンタル不調は一部の人の特殊な問題ではない

厚生労働省の資料では、精神疾患を有する患者は令和5年で約603.0万人です。
そのうち外来は約576.4万人、入院は約26.6万人。
平成14年の258.4万人と比べると、約3倍と大きく増えました。
※ただし、令和2年以降は総患者数の推計方法が変更されているため、単純に数字だけを横並びにして見るには注意も必要です。
それでも、メンタル不調は、もう「一部の弱い人の問題」ではないことがわかります。
働いている人の生活の中で、ごく普通に起きうる問題になっているのです。
外来患者の中でも、気分[感情]障害はかなり多いです。
令和5年の外来患者数は169.3万人で、平成14年の74.3万人から大きく増えています。
看護師さんでも、会社員でも、子育て中の人でも、支援職でも、「最近しんどい」が、個人の根性や弱さだけで説明できない状況が広がっているということです。
休職は長引きやすい。しかも精神疾患は長い

ここで見ておきたいのが、休業の長さです。
厳密な意味での「平均休職日数」が健康保険からそのまま出ているわけではありません。
ただ、かなり近い指標として使えるのが、傷病手当金の支給期間です。
協会けんぽの令和6年度調査では、傷病手当金の原因傷病として精神及び行動の障害が39.15%で最多でした。
しかも、平均支給期間は215.28日。全体の平均支給期間171.75日と比べても長く、メンタル不調による休職が長期化しやすいことが見えてきます。
ここで誤解してほしくないのは、単純に「休むな」と言いたいわけではないということ。
何の設計もないまま長引く休み方は、本人の回復にも、家計にも、職場復帰にも不利になりやすいということをここでは伝えていきたいと思います。
戻った後の生活が大変になることがある
厚生労働省の令和6年「労働安全衛生調査」では、過去1年間にメンタルヘルス不調で連続1か月以上休業した労働者がいた事業所は10.2%、退職した労働者がいた事業所は6.2%でした。
労働者個人ベースでも、連続1か月以上休業した人は0.5%、退職した人は0.2%です。
割合だけ見れば小さく見えるかもしれません。
でも、職場単位で考えると、決して珍しい話ではない。どこの職場でも起きうる話です。
日本の大企業コホート研究でも、30日以上の長期病休者のうち、精神障害群の1年以内の復職率は70.3%、3.5年時点の復職累積発生率は82.1%でした。
裏返すと、1年で戻れていない人が3割近くいるし、離職に流れる人も17.4%いるということです。
メンタル不調は、休ませた時点で終わりではありません。
戻るまでと、戻った後の事も含めて見ないと、本当の意味での支援にはなりにくいんです。
再発・再休職は思っている以上に多い

日本のIT企業の追跡研究では、復職後8.5年のあいだに49.3%が再びうつによる休職を経験しています。
しかも、その85.2%は復職後3年以内に起きていました。
別の日本研究では、うつ病による1回目の休職は平均107.3日、2回目は156.9日でした。
つまり、再休職した時は、2回目のほうが長引きやすい。
さらに、最初の休職が長いほど、次の休職も長くなりやすいことが示されています。
ここから見えてくるのは、最初の休職でどう対応するかが、その後を左右するということです。
休ませるだけで終えるのか。
生活と復帰の設計まで含めて伴走するのか。
本人の認知のクセ、職場との関係性、家計の不安、制度の使い方まで見ていくのか。
ここで、未来の景色が変わってきます。
医療だけに任せないことが大事
すべての精神科医療が悪いという話ではありませんが、医療構造で診断書も投薬もすぐに出せるというのが現状です。病院も経営で保険診療の点数によって報酬が変わってくるため、点数を意識した対応になることも多々あります。
もちろん、それによって助かる人もいますが、逆に症状が長期化してしまうケースも多くあるということは理解しておく必要があるのではないでしょうか。
症状が強い時、眠れない時、希死念慮がある時、日常生活が大きく崩れている時。
医療につながることで問題解決のきっかけになったり、必要な場面も多いです
ただ、薬物療法だけで、うつになりやすい状況が変わるかと言われるとそうではありません。
考え方のクセや働き方、価値観などは、薬物療法だけで変わらないのです。ですが一人ひとりの生活を創っている土台の部分がそれにあたります。ここの支援がより重要なのではないでしょうか。
薬や通院だけでは拾いきれないもの
・生活の崩れ。
・家計の不安。
・職場との距離感。
・家族への説明。
・復職後の働き方。
・本人の認知のクセ。
・支援を受けることへの抵抗感。
医療だけで根本的な問題が解決できる資源はありません。だからこそ、医療の外側にある生活支援や復職支援までつなげて考える必要があります。
支援者に求められるのは、根本的なケアができる力
こういう状況があるからこそ、支援者側にも求められるものが変わってきています。
ただ話を聴くだけ。
励ますだけ。
制度を紹介するだけ。
「無理しないでください」と伝えるだけ。
もちろん、それが必要な場面もあります。
でも、それだけでは届かないケースが増えているように感じます。
本人が何に傷ついているのか。
何を怖がっているのか。
どんな思い込みや認知のクセが、回復や行動を止めているのか。
お金の不安が、どれくらい心身に影響しているのか。
職場との関係性の中で、何が繰り返されているのか。
ここまで見ないと、根本的なケアには届きにくい。
メンタル不調の背景には、単なるストレスだけではなく、
「私は迷惑をかけてはいけない」
「休むと価値がなくなる」
「ちゃんと働けない自分はダメだ」
「助けを求めたら負け」
というような認知が隠れていることもあります。
そこに気づかないまま、表面的に休ませても、同じ働き方、同じ考え方、同じ人間関係に戻れば、また苦しくなることがあります。
だから支援者には、心・体・お金・制度・働き方・家族関係を切り離さずに見ていく力が必要です。
これは、やさしさだけでは足りません。
知識だけでも足りない。
制度だけでも、心理だけでも、現場感だけでも不十分です。
その人の人生全体を見ながら、でも依存させず、現実的に一歩ずつ回復へ向かえるように整理する力。
これからの支援者には、そういう根本的なケアの力が必要になっていくと思います。
企業も休職対応を「個人の問題」で終わらせないほうがいい
企業側も、考え方を変えていく必要があります。
メンタル不調を、本人の弱さや個人の問題として扱ってしまうと、同じことが繰り返されます。
休職者が出た。
診断書を受け取った。
規定通りに休ませた。
復職可の診断書が出たから戻した。
また調子を崩した。
結局、退職した。
この流れになってしまうと、本人も苦しいし、現場も疲弊します。
上司もどう関わればいいか分からなくなる。
同僚にも負担が偏る。
人事や管理職だけが抱えるには、限界があります。
だから企業には、休職者対応を“その人だけの問題”として見ない視点が必要です。
業務量は適切だったのか。
相談しやすい導線はあったのか。
管理職が初期サインに気づける状態だったのか。
復職前後の負荷調整は現実的だったのか。
本人の生活や制度不安まで見られる支援者につなげられていたのか。
ここを見ないと、休職対応はどうしても後手に回ります。
これからの企業に必要なのは、単に「休ませる制度」ではありません。
不調を長期化させない支援設計です。
そして、復職後に再び崩れにくい環境づくりです。
そのためには、社内だけで抱え込まず、外部の支援者やカウンセラー、産業保健職と連携していくことも必要になります。
会社と支援者が見ておきたいこと
ここまでの数字を見たうえで、私が大事だと思う視点はシンプルです。
1.休職の前に、調整できる選択肢があるか
いきなりゼロか100かにしないことです。
業務量の調整。
夜勤や対人負荷の見直し。
時短。
配置転換。
連絡経路の整理。
相談窓口への接続。
休職しかない状態になっていないか。
まず、ここを見たいです。
2.休んでいる間の生活設計があるか
休み方に設計がないと、生活が崩れます。
睡眠、食事、通院、家計、傷病手当金の見通し、家族への説明、職場との距離感。
このあたりを曖昧にしたまま休みに入ると、不安だけが増えていきます。
「何もしないで休む」ことが必要な時期もあります。
でも、ずっと何もしないままだと、戻るきっかけを失うこともある。
だから、休む時期にも段階が必要です。
3.復職支援を、復帰直前から始めないこと
戻る直前だけ面談しても、遅いことがあります。
朝起きられるのか。
週に何日なら外出できるのか。
人と話すとどれくらい疲れるのか。
元の働き方にそのまま戻すのが妥当なのか。
本人は何を不安に感じているのか。
こういうことは、休みに入った時点から少しずつ整理しておいたほうがいいです。
4.心だけの問題にしないこと
メンタル不調は、心だけで起きていません。
働き方。
お金。
制度理解。
役割の重さ。
孤立。
人間関係。
家族関係。
過去の経験。
認知のクセ。
こういうものが重なって、しんどさは長引きます。
だから支援も、心だけのケアで終えないほうがいい。
ここはかなり本質だと思っています。
まとめ
休むことは、逃げではありません。
でも、長引かせるだけの休み方は、本人にとっても、会社にとっても、あまり支援的ではないです。
診断書が出たら終わり。
休職したら安心。
早く戻せばいい。でももちろんありません。
必要なのは、その人が生活を壊し切らずに回復へ向かえる設計です。
心、体、お金、制度、働き方、人間関係。
この全部を切り離さずに見ること。
きれいごとではなく、私はそこからしか、現実に戻れる支援は始まらないと思っています。
そして、こういった状況があるからこそ、支援者には根本的なケアができる力が必要です。
企業もまた、その考え方を取り入れていく必要があります。
不調になった人を、ただ休ませる。
戻れる人だけ戻す。
戻れなかった人は退職していく。
そういう支援では、もう限界があります。
これから必要なのは、人が壊れ切る前に気づき、生活と働き方を立て直し、再び自分の力を取り戻せるように関わる支援です。
そのために、支援者自身も学び続ける必要がある。
そして企業も、支援を「福利厚生」ではなく、働く人と組織を守る土台として考えていく時期に来ているのだと思います。
リカバリーセラピスト養成講座について
一般社団法人FP看護師パートナー協会では、心・体・お金・制度・働き方を切り離さずに支援できる人材を育てるため、リカバリーセラピスト養成講座を開講しています。
リカバリーセラピーでは、認知行動療法やスキーマ療法の視点を土台にしながら、本人の言葉の奥にある感情、思い込み、行動パターンを整理していきます。
ただ話を聴くだけではなく、
「なぜ同じところで苦しくなるのか」
「何が行動を止めているのか」
「どの制度や働き方を組み合わせると、現実的に立て直せるのか」
まで見ていく支援です。
支援職として、もっと根本的なケアができるようになりたい方。
看護師、カウンセラー、FP、相談支援に関わる方。
企業のメンタルヘルス対策や復職支援に、心理・制度・生活設計の視点を取り入れたい方。
これからの支援に必要な視点を、一緒に学んでいきませんか。
リカバリーセラピスト養成講座の詳細は、以下のページをご覧ください。
参考元

