「子どもの頃に安心できる親子関係がなかったら、もう愛着は形成できないんじゃないか…」
そう思って、過去に傷ついた自分をどこかで諦めている人も少なくありません。日本では3歳児神話があるので、そう思う人も多いのではないでしょうか。
でも実は、大人になってからでも“安定した愛着”は築くことができるのです。
この考え方を「Earned Secure Attachment(獲得された安定型愛着)」といいます。
獲得された安定型愛着とは?
脳科学や発達心理学の研究では、大人になってからでも「新しい愛着スタイル」が形成されることがわかっています。
この現象は「Earned Secure Attachment(獲得された安定型愛着)」と呼ばれています。子ども時代に不安定な愛着を経験した人が、大人になってから信頼できる他者との関係性を通して、安心感や自己信頼を取り戻していくプロセスを指します。
たとえば…
- 理解しようとしてくれるパートナー
- 否定せずに話を聴いてくれる友人
- 伴走してくれるセラピスト
こうした存在との「安心できる関係性」が、あなたの中に新しい愛着の感覚を育ててくれるのです。
そして、安心・共感・一貫性のある関わりを繰り返し経験することで、脳の神経回路や感情の反応パターンそのものが書き換わっていくのです。
安定した人が与えてくれるもの

愛着を育て直す上で重要なのは、「安全な関係の中で感情を体験し直すこと」です。
以下のような関わりが、心の再構築をサポートします。
- 感情を受け止めてくれる
→ ジャッジせずに「そう感じたんだね」と共感してくれる。 - 境界線を大切にしてくれる
→ 無理に踏み込まず、あなたのペースや個性を尊重してくれる。 - 自分の弱さも見せてくれる
→ 完璧でいようとせず、等身大の姿で関わってくれる。 - コントロールしようとしない
→ 「こうあるべき」ではなく、「今のあなた」を大切にしてくれる。
このような関係性の中で、他者と感情を共鳴させる「共調(コレギュレーション)」を体験し、やがてそれが「自分で自分を安心させる力(自己調整)」へとつながっていきます。
実際に変われた人たちの事例
① 過去に虐待を受けて育った30代女性
幼少期に親から暴言・暴力を受け、自分の感情を表現することに極度の恐怖があった女性。
大人になってから出会ったパートナーが、どんな時もジャッジせず「まず聴いてくれる」存在だったことで、徐々に感情を出せるように。
現在はカウンセラーとして、同じような境遇の女性を支えています。
② ワンオペで子どもと関われなかった40代母
フルタイム勤務と家事育児の両立で、子どもとの関わりが薄かったことをずっと後悔していた。
自己肯定感が低く、罪悪感から人を避けがちに。
ある研修で「まず自分の安心感を取り戻す」ことの重要性を学び、自分と向き合う時間を増やすことで、人と心地よく関われるようになった。
今では、親子関係の修復も少しずつ進んでいる。
③ 離婚による家庭環境の変化で自信を失った20代男性
両親の離婚後、「自分が悪いから家庭が壊れた」と思い込んでいた。
人に本音を見せるのが怖く、いつも一歩引いて生きていたが、信頼できる上司との関係を通して「どんな自分でも受け入れてくれる人がいる」ことを体感。
少しずつ人に頼ることを覚え、自分の弱さを認められるように。現在は職場でチームをまとめる立場に。
愛着形成の妨げになる行動

逆に、愛着を育むうえで妨げとなる行動はこういったものです。
- 不安感をあおる
- 認めてもらうために戦わなければならない関係
- 曖昧な言動で相手を翻弄する
- 人格否定や攻撃によって変化を迫る
このような関係では、愛着の修復どころか、むしろ不安が強化されてしまいます。
愛着が再構築されるとどうなるか?
Earned Secure Attachmentが育つことで、人生にこんな変化が起きます。
- 防衛反応が和らぐ
→ 心が開きやすくなり、人との関係が自然になる - 恥の感覚が薄れる
→ 自分を責めるクセが減り、ありのままを受け入れられる - 自己成長に目が向く
→ 「傷を防ぐ」ための行動ではなく、「より良く生きる」ための行動に変わる
こうした内面の変化が、パートナーシップ・仕事・育児など、あらゆる人間関係にポジティブな影響を与えてくれます。
パートナーとの関係にどう活かす?
もしあなたのパートナーが安定型の愛着を持っていれば、その関係は大きな力になります。
でも、お互いに不安型や回避型の愛着を抱えている場合は、お互いが成長に取り組む必要があります。
そのためには…
- 自分の「安心の土台」をまず整える
- カウンセリング・書籍・講座など、外部のリソースを活用する
- 恐れや悲しみ、恥などの“根底にある感情”を理解する
- トラウマの癒しに取り組む
- 攻撃ではなく、主張として感情を伝える練習をする
忘れてはいけないポイントは「変わりたい理由」
自分を変えたい、と思うとき、その動機が「相手に認められたい」「相手を変えたい」から来ていると、長続きしません。
本当に愛着を育て直すには、「自分が自分のために成長したい」と思えるかどうかがカギです。
たとえ過去に満たされなかった経験があっても、あなたの中の愛着は「今からでも」育て直すことができます。
そして、その変化はあなた自身の人生だけでなく、あなたが関わるすべての人へ、あたたかい影響を与えていくでしょう。
自分にとっての「安心できる関係性」を、これから少しずつ、丁寧に育てていきませんか?
過去がどうであれ、未来は選べる
「親との関係がこうだったから…」
「自分は愛される価値がないと思っていたから…」
そうやって自分を責めてしまう人ほど、本当は誰かを大切にしたい、愛されたいという気持ちが人一倍強い人です。
そしてその気持ちは、これからのあなたを育て直すための“種”になります。
あなたの人生に、これから「安心」と「信頼」を築ける時間は、まだたくさん残っています。
それは、決して遅くはありません。
まずは、「自分をもう一度信じてみること」から。
そこから未来が、静かに動き始めます。
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